2016年4月9日土曜日

創作ミュージカル「ステップ」レポート

先日、終演した創作ミュージカル「ステップ」(主催:大垣市・大垣市教育委員会 企画・運営:リトミックGifu)のレポートです。いつもブログは、基本的にどなたに読んで頂いても分かりやすいように書くことを念頭に書いていますが、今回はやや専門的な内容も含みます。この点、ご容赦頂ければ幸いです。

 ミュージカル「ステップ」の音楽作りは、僕にとって大きな方向転換が必要となりました。まず、どうして方向転換が必要になったかというと、最近色々なコンサートでリクエストにあがる曲が以前と比べ、曲の傾向が変わってきていると感じたからです。つまり嗜好(好み)や感覚の変化です。
 日頃、私たちは、テレビ、ラジオ、インターネット、学校、商業施設、ありとあらゆる場所で音楽が溢れ接する環境にいるので、その音楽に対するの嗜好の変化を感じることは少ないかもしれません。 リトミックGifuさんのミュージカルは、主に小学生が出演するのですが、今の小学生ぐらい年代の子ども達が口ずさむ歌、リズムに乗って踊る曲というのが、4〜5年前と比べても大きな変化があると感じます。人気のあるアニメソング、アイドルソング、ボカロ曲、歌謡曲を分析してみるとアップテンポ、バラードを問わず、特に平歌(ひらうた)と呼ばれるサビ以外の部分が、非常にリズムが細かくシンコペーションといって複雑なリズムで、オーバーに言うとラップに音程をつけたような節まわしの曲が多いのです。 また、アレンジもEDM(エレクトリックダンスミュージックの略)をはじめ、DTMを活用した、いわゆる「打ち込み」系の音楽のアプローチが台頭していると感じます。

  ミュージカルでは、作品として脚本とともに音楽の役割が大きく重要で、特に創作ミュージカルの場合、定まった評価があるわけではないので時代に対応した楽曲が必要になってきます。(昔のシーンを表現するためなど特別な演出上の理由がある場合は除く。) 「時代に合った曲⇨出演する子ども達、親御さんのモチベーションUP⇨集客にもつながる」というサイクルが生まれると僕は考えます。

 今回の物語の舞台は、架空の学校で行われるダンスバトル大会なのでダンスミュージックを基調として舞台音楽を構成しました。前述のEDM(エレクトリックダンスミュージックの略)は、歌謡曲、アニソン、アイドルソング、ゲームミュージック、高級車のCMなどでも、EDMそのものでなくとも、その製作手法やテイストが採り入れられており、現代において聞かない日はないジャンルの音楽です。欧米に比べクラブカルチャーがそれほど浸透していない日本においても、あらゆる局面で耳にするサウンドで「今の音」としてどうしても採り入れなければならない要素でした。 しかし、ゼッド、ナイフパーティー、アヴィーチ、スクリレックス、ゲッタなど、その分野で著名なアーティスト、トラックメーカーさんの作品を聴いてみると、「この音は一体どうやって作っているの?」と思うものばかり。 色々調べてみると、作曲の方法そのものも違っていました。

 ループといって4〜8小節程度を単位としたコードやリズムのパターンをまず作り、そのパターンを何度も繰り返し、パートを増減させ展開をつけていくというものでした。ダンスミュージックでは、使用されている音楽ソフトもそうしたループを元に展開しやすいソフト(Live 、MASCHINE、Fl Studioなど)が使われているようです。また、サンプルと言って録音された短い音素材を切り貼りしたり、楽曲そのものをスライスといって切り刻んで、曲の素材と使用するなど、今まで僕が思っていた作曲という概念とは、全く違うものでした。 リミックス、マッシュアップといったDJやクラブカルチャーから生まれたトラックメイキングにもつながる手法です。 これまでEDM系のアーティストやトラックメーカーさん達は、DJも兼任していたりDJ出身者が多いので謎でしたが、楽曲製作手法を知ることで僕の中で点と点が繋がった気がしました。
 また、このテの音楽で肝となるシンセの音作り、エフェクト処理やサウンドメイクのノウハウも企業秘密というか公開されてない部分が多く、とにかくガイドブックを読みあさったり、インターネットを検索したりして情報集めに奔走しました。
 テープストップ、スタッター、グリッチ、カットアップ、フィルターアレンジ、サイドチェイン、ウォブルベース、グロウルベース、ノイズ、チップチューン、ゲーターなど、最近よく聞かれるサウンドを楽曲に盛り込みました。まだまだわからない部分も多々ありますが、「聴く人が聴けばやりたいことはわかる」ぐらいのところには持っていけたかなと思っています。

難しかったのは、ただカッコ良い曲を作れば良いというわけではなく、舞台音楽としてミュージカルのストーリーやシーン、演出に合った楽曲でなければならないというところです。また、鑑賞される層のは小さな子どもからお年寄りまでみえるのでバランスも大切です。
演出の出崎拓哉先生からは全体的に「スポ根アニメ」のような感じというオーダーがあったので、テーマ曲のメロディーラインには例えば「アッタクナンバー1」「巨人の星」のような「昭和感漂う古き良き日本的なスポ根魂」テイストを入れたつもりです。オープニングソロ演奏では、「現在・過去・未来」「三相女神(トリプルゴッデス)」「創造・維持・破壊」というような意味で「トリニティ」と名付け、クラブミュージック的なテイストや手法・発想で激しく移変り行く時代を表現した曲をVJ(ビデオジョッキー)風に編集したCGとタイトルロゴやテロップを入れ紗幕にプロジェクター投影し演奏しました。

ダブステップ、コンプレクストロ、エレクトロハウス、グリッチホップ、テクノポップなどをはじめ普段のステージでは、ほとんど演奏しないジャンルをたくさん聴き勉強しましたが、こうした音楽は他のジャンルとの親和性も高いので、今後の作曲活動にも生かしていけたらと思っています。

最後に、今回、僕の音楽の大きな方向転換について受け入れ、ご理解を頂いたスタッフの皆様、出演者、保護者の皆様に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

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